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最小宇宙の最大幸福

『そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
 かなしく白いあかるい死の床で
 私の手からとつた一つのレモンを
 あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
 トパアズいろの香気が立つ
 その数滴の天のものなるレモンの汁は
 ぱつとあなたの意識を正常にした………』

智恵子抄/高村光太郎 より “レモン哀歌



「謎は減らんよ」
「ほんとに?」
「うん。コナンじゃないんだから」
「…コナンだよ」



本当は私もそう思う。だって謎は今だってこんなにも産まれている。
君が噛む、たったひとつのレモンから立つ香気には、銀河がいくつもいくつもできて、消える。
答えあわせなら何度だってやった。
それでも“正解”を越える“謎”はやってくる。
美しく、矛盾の無い、それでいて窮屈な“正解”を、薙ぎ倒してやってくる。ここにくる。

ペンギン*ハイウェイ/森見登美彦
ペンギン*ハイウェイ
トミヒコ氏、大冒険。今度はアタラシイ街で。

なんと!れっきとした長編小説、森見作品であるにも関わらず、京都じゃない/主人公がクサレ大学生でない/なのに相も変わらず連呼しすぎ(例のアレですよ、皆さん)。
トミヒコ氏の10人目(単行本10作目!!)のお子さんにして、2010年の日本SF大賞受賞作品である(おめでとうございます!!)。
そのアニバーサリー的な数字に於いても、手法的な転換に於いても、トミヒコ氏にとって大きな分岐点になったであろう今作は、是非、一人でも多くの人に知ってもらいたい紛れもない傑作。





この謎を解きたい。
他のどんな謎よりも、真っ直ぐこっちを向いているのに、顔はハッキリ見えるのに、表情が解らないもどかしさ。
それでもただここに立っている、この謎を解きたい。
そう思ってしまってからの少年は、いよいよ子どものままではいられなくなってしまった。

その謎を解けば。
それを正しさに導いて、解こうとすればそれは消えてしまう。
しかし、全ての謎がひとつになって、弾け消えゆくとき、またそれは新たな謎の大星雲を造る。
失われ、再生していくひとつのレモン。
ようやくひとつのレモンの実に成ったその謎に、やっとの思いで歯を立てると、そこからまた立ち上る新たな香気。

甘く、酸っぱく、脳天まで突き抜けるような凛とした香り。心臓をぎゅっと掴む、あの、汁の味。



私は最後の章のページをめくりながらずっと、死の床で光太郎が智恵子に差し出したレモンのことを思っていた。

すっかり子どもになって、死に遊びにいく智恵子。
出掛ける前に智恵子はレモンを欲しがって、光太郎からそれを受け取る。
それが今までの全ての答えであったかのように待ち焦がれたその味に、ほんの一瞬の覚醒をし、その後すぐに行ってしまった。

光太郎の手でどこまでも美化された、智恵子の生きた“際”の世界(なんとなく、“死に際”とは言いにくい)。



世界の果て。
それはどんなところか。
きっとそこに出掛ける前に、レモンを食べないと、行けないところ。
なんだかそんな気がした。

だから少年は初めてレモンに歯を立てた。

そして世界の果てからでも、歩き出す。いつの日かまた再生されるレモンを、そうなることを祈って、ポケットの中に大切にしまって。



一番大きいと思っていた宇宙が、君の持ってるものを見て、実はそうでなかったと知った。
なんでもないと思っていたことが、君のくれたものを見て、とんでもないしあわせだったと気が付いた。



甘酸っぱさに心臓が握られて、血液が澄み渡る。
たったひとりという最小宇宙に産まれて、たったひとりに耐えきれずに、たったひとりで死んでいく。
それは矛盾だらけの、ヒトとしての最大幸福。



少年はそこからでも、やっぱり歩き出すことを決めた。
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ま★

Author:ま★
こんにちは。
ようこそおいでくださいました。

頭の中はとても愉快なやつです。
見た目はとっても冴えないですが。

更新は気まぐれになりそうですが、できるだけ頑張ります。

パーティーの招待状には、終わりの時間を書かないそうです。

しかしこのパーティーの本当に怖いのは、そもそも終わりの時間は永久に訪れそうにないこと。

ごゆっくり。

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