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2:NIGHT

僕が晩ごはんを用意する日は(これは何ヶ月かに1回のことなのだけれど)、彼女は先にお風呂に入る。
彼女はいつもお風呂のドアを閉め切らない。
彼女曰く、それは「地震対策の一環」だそうだ。

彼女の恐れているものは、地震→カミナリ→火事→借金→(クソ)おやじ、の順らしい。
恨んでいるものの順はこの5つをそっくりひっくり返した並びになっている。
でも僕の知っている限りでは彼女はかなりのファザコンだ。
その点を指摘すると彼女は、「あんたはいっちょんわかっとらんねー」と言う。
そして「恋はスリールショックサースペンス…」とか口ずさむ。彼女はその曲のその一節しか知らない(だから僕もそうだ)。

ところで、僕が台所に立っていると、背後のバスルームの扉から彼女が「どーお?」と声をかけてきた。
僕はフォークを鍋にそっと入れ、一番大きなじゃがいもを選んでそれに刺す。
でもまだまだ、火が通っていない。なんせじゃがいもがでかすぎる。

「まだ無理。てか、じゃがいもがでかすぎん?」
「カレーはでかいじゃがいもで。これ、おじいの遺言なの。」
「うそつけ。おまえのじーちゃんから手紙届いてたぞ。」
「うそ!!おこずかい!!!」
湯舟が勢いよく溢れ出す音がする。
「まだ身体も髪も洗ってないやろ。」
僕が言うと、彼女はあからさまなブーイングをした。「ぶーぶー」



しばらくすると、バスルームの天井から湯舟に落ちる雫の音しか聞こえないほど、あたりが静まり返った。

今度は僕から声をかける。「どーお?」
「んーーー…」
いきなり彼女は「パアン…ッ!!!」と叫んだ。
僕が貸したスラムダンクも佳境を迎えているらしい。彼女は風呂で読書をするのがすきだ。おそらく今のは山王戦での桜木と流川のハイタッチだ。
彼女は鼻をすする。というよりもうほとんど嗚咽である。
読書は終わったらしい。フェイスタオルでくるまれた漫画本が廊下に放り投げられた。

「うぁーーーっ…」と、ビールを飲んだ時のおやじのような声を出して彼女は、“本来お風呂でしなければならないこと”を一時間半以上のウォーミングアップの後に五分くらいで片付けてしまう。
その途中でバスルームから顔を出して、泡でバリバリに立てた髪を見せつけ、「オマエを蝋人形にしてやろうかー!」と言うパフォーマンスも忘れなかった。
彼女はファンを大変大事にするスターなのである(自称)。



「ふぅ…。」
彼女が洗い髪をバスタオルでわしゃわしゃしながらテーブルにつく。
湯気を立てているのはお風呂上がりの彼女と、異様にじゃがいもがでかいカレーだ。

彼女はおじいちゃんの手紙を手に取ると、テレビの上にそれを置いて、拝んだ。
その瞬間にアコムのCMが流れ始めたので、彼女は「バルス!」と叫んでテレビを消した。

そしてもう一度手を合わせ、命に対する慈愛など1ミリもこめられていないようなトーンで「いただきまーす!」と言って食べ始めた。
彼女は一向にじゃがいもを食べようとしない。
皿の端に寄せられたじゃがいも岩場を見ながら、いたずらに「要らないなら食べるよ?」と言うと、彼女はぎろっと僕を睨んで、「ストロベリー オン ザ ショートケーキ!」と言った。
彼女がショートケーキの上にのっかってるいちごを一番最後に食べるのも、僕は勿論知っている。



彼女は渋々食器を片付ける。
なにせ僕はじゃんけんに5回も連続して勝ったのだ。奇跡だ。奇跡は起こる。
僕は彼女が台所に居る間、ドラクエをする。

彼女が台所から「どーお?」と聞いてきたので、「もうすぐラスボス」と答えた。
すると「違うわボケ!星。」と彼女。
僕はゲームを中断してベランダに出た。
「うーん…」
すると背後で窓がピシャンと閉められる。見ると彼女は満面の笑みで鍵をかけている。
「ああ…」
前にも一度こういうことはあったから、僕はこのときばかりは、僕も煙草が吸えたら良いのに、と思う。

彼女がレースのカーテンを引く。
やがて彼女が電話をかける声が聞こえてきた。
僕は待つしかない。



「もしもしお母さん?うん、おじぃに代わって!うん、元気元気………」
「あ!おじーーー!手紙きたよー!うん、ありがとう!ううん、まだ読んでないよ!!今からー!…えーっ。いいよいいよ、代わんなくて!!…えーっ、いいってば…」
彼女の影は落ち着きを無くして、部屋の中をうろうろ彷徨っている。
僕はそれを見ながら、口笛を吹くことに決めた。

ふと、彼女の影がぴたりと止まる。
「………うん。うん。お父さんは??…ふーーーん。べつ興味なかけど。うん。うん。分っとるって。はーーーい………」
彼女は少し鼻をすすった。そしてようやく窓を開ける。



案の定、ドラクエはセーブもせずに消されていた。
僕が黙ってベッドに腰を下ろすと、彼女はにやにやしながら歌い始めた。
「ユーアーマサンシャーィン、マイオンリーサンシャーィン…♪」
やっぱり聴こえてたのか。



そして彼女は「明日こそ朝がきませんよーに!」と笑いながら、電気を消した。

横になった僕の背中に、彼女が顔を寄せて、ちいさく「へたくそ」と、また笑った。
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ま★

Author:ま★
こんにちは。
ようこそおいでくださいました。

頭の中はとても愉快なやつです。
見た目はとっても冴えないですが。

更新は気まぐれになりそうですが、できるだけ頑張ります。

パーティーの招待状には、終わりの時間を書かないそうです。

しかしこのパーティーの本当に怖いのは、そもそも終わりの時間は永久に訪れそうにないこと。

ごゆっくり。

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