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1+2:ALL THE DAY AND NIGHT

夜明け前、目が覚めると、上半身を起こしてベッドの上で泣いている。



「どうしよう!本当に朝がこなかったらどうしよう!!」

彼女は眠る前に自分が冗談で言ったことに、今になって酷く悩まされているらしい。

「いや、わかってるんだけどね!朝はくるよ!でも!!」あの昨夜のシャンプーデーモン閣下の再来のような頭を左右にブンブン振り、「今!!暗いし、どうしようかと思って!!」
「今だけはだめ、これは恐い!」と取り乱している。
彼女の嘘が、ほんとになるか、嘘のまま終わるか。確かにそれは、今の時点では誰にもわからないことだ。
だって彼女が願ったから、ってわけではなくても、今、何かが起こってこのまま朝がこなくなることがないとも限らない。
僕はこんなに取り乱している彼女に気休めの言葉なんてかけられない。

「ねぇ、なんかお話してよ!」

彼女は悪夢を見たりして取り乱すとすぐにこうせがんでくるが、僕はいつもこれには閉口してしまう。
なにせ僕はこんなときに彼女の頭を優しく撫でたりしながら話すお話なんて、実のところひとつも知らないのだ。
僕はまだ、イイ男道においては修行中の身なのだから。

だから代わりに歌を歌った。



You are my sunshine, my only sunshine.
You make me happy when skies are grey.

You'll never know, dear, how much I love you.
Please don't take my sunshine away.



僕はこの部分だけしかこの歌の歌詞を知らなかったので、壊れたおもちゃみたいにここだけを繰り返した。

最初は奇妙に思っていたようだけど、そのうち彼女はなんとなく納得したような顔になって横になり、間もなくすやすやと寝息を立てた。



僕は眠っている彼女に言った。

「明日晴れたら風船に手紙をつけて、太陽に向けて飛ばそう。出てきてくれてありがとうって言おう。」

聞いているんだか聞いていないんだか、いずれにしても彼女はすごく楽しそうな寝顔をしている。

「そういえば君が言うには、この地球もひとつの風船らしいね。だから、この街で一番、神様が握ってくれそうな高いところに登ろうね。そこから飛ばすんだ。ついでにその風船も掴んじゃって、太陽に届けてくれるかもしらん。」



僕らは明日、そんな素敵なことを、するかもしれないし、しなくてもいいと思う。



どっちにしろ、また明日も彼女の奇抜で大胆な話が聞けたら僕の勝ちだし、鍋にはでっかいじゃがいもカレーもまだたっぷり残ってる。



だからそんなことは、どっちだって良いと思う。
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2:NIGHT

僕が晩ごはんを用意する日は(これは何ヶ月かに1回のことなのだけれど)、彼女は先にお風呂に入る。
彼女はいつもお風呂のドアを閉め切らない。
彼女曰く、それは「地震対策の一環」だそうだ。

彼女の恐れているものは、地震→カミナリ→火事→借金→(クソ)おやじ、の順らしい。
恨んでいるものの順はこの5つをそっくりひっくり返した並びになっている。
でも僕の知っている限りでは彼女はかなりのファザコンだ。
その点を指摘すると彼女は、「あんたはいっちょんわかっとらんねー」と言う。
そして「恋はスリールショックサースペンス…」とか口ずさむ。彼女はその曲のその一節しか知らない(だから僕もそうだ)。

ところで、僕が台所に立っていると、背後のバスルームの扉から彼女が「どーお?」と声をかけてきた。
僕はフォークを鍋にそっと入れ、一番大きなじゃがいもを選んでそれに刺す。
でもまだまだ、火が通っていない。なんせじゃがいもがでかすぎる。

「まだ無理。てか、じゃがいもがでかすぎん?」
「カレーはでかいじゃがいもで。これ、おじいの遺言なの。」
「うそつけ。おまえのじーちゃんから手紙届いてたぞ。」
「うそ!!おこずかい!!!」
湯舟が勢いよく溢れ出す音がする。
「まだ身体も髪も洗ってないやろ。」
僕が言うと、彼女はあからさまなブーイングをした。「ぶーぶー」



しばらくすると、バスルームの天井から湯舟に落ちる雫の音しか聞こえないほど、あたりが静まり返った。

今度は僕から声をかける。「どーお?」
「んーーー…」
いきなり彼女は「パアン…ッ!!!」と叫んだ。
僕が貸したスラムダンクも佳境を迎えているらしい。彼女は風呂で読書をするのがすきだ。おそらく今のは山王戦での桜木と流川のハイタッチだ。
彼女は鼻をすする。というよりもうほとんど嗚咽である。
読書は終わったらしい。フェイスタオルでくるまれた漫画本が廊下に放り投げられた。

「うぁーーーっ…」と、ビールを飲んだ時のおやじのような声を出して彼女は、“本来お風呂でしなければならないこと”を一時間半以上のウォーミングアップの後に五分くらいで片付けてしまう。
その途中でバスルームから顔を出して、泡でバリバリに立てた髪を見せつけ、「オマエを蝋人形にしてやろうかー!」と言うパフォーマンスも忘れなかった。
彼女はファンを大変大事にするスターなのである(自称)。



「ふぅ…。」
彼女が洗い髪をバスタオルでわしゃわしゃしながらテーブルにつく。
湯気を立てているのはお風呂上がりの彼女と、異様にじゃがいもがでかいカレーだ。

彼女はおじいちゃんの手紙を手に取ると、テレビの上にそれを置いて、拝んだ。
その瞬間にアコムのCMが流れ始めたので、彼女は「バルス!」と叫んでテレビを消した。

そしてもう一度手を合わせ、命に対する慈愛など1ミリもこめられていないようなトーンで「いただきまーす!」と言って食べ始めた。
彼女は一向にじゃがいもを食べようとしない。
皿の端に寄せられたじゃがいも岩場を見ながら、いたずらに「要らないなら食べるよ?」と言うと、彼女はぎろっと僕を睨んで、「ストロベリー オン ザ ショートケーキ!」と言った。
彼女がショートケーキの上にのっかってるいちごを一番最後に食べるのも、僕は勿論知っている。



彼女は渋々食器を片付ける。
なにせ僕はじゃんけんに5回も連続して勝ったのだ。奇跡だ。奇跡は起こる。
僕は彼女が台所に居る間、ドラクエをする。

彼女が台所から「どーお?」と聞いてきたので、「もうすぐラスボス」と答えた。
すると「違うわボケ!星。」と彼女。
僕はゲームを中断してベランダに出た。
「うーん…」
すると背後で窓がピシャンと閉められる。見ると彼女は満面の笑みで鍵をかけている。
「ああ…」
前にも一度こういうことはあったから、僕はこのときばかりは、僕も煙草が吸えたら良いのに、と思う。

彼女がレースのカーテンを引く。
やがて彼女が電話をかける声が聞こえてきた。
僕は待つしかない。



「もしもしお母さん?うん、おじぃに代わって!うん、元気元気………」
「あ!おじーーー!手紙きたよー!うん、ありがとう!ううん、まだ読んでないよ!!今からー!…えーっ。いいよいいよ、代わんなくて!!…えーっ、いいってば…」
彼女の影は落ち着きを無くして、部屋の中をうろうろ彷徨っている。
僕はそれを見ながら、口笛を吹くことに決めた。

ふと、彼女の影がぴたりと止まる。
「………うん。うん。お父さんは??…ふーーーん。べつ興味なかけど。うん。うん。分っとるって。はーーーい………」
彼女は少し鼻をすすった。そしてようやく窓を開ける。



案の定、ドラクエはセーブもせずに消されていた。
僕が黙ってベッドに腰を下ろすと、彼女はにやにやしながら歌い始めた。
「ユーアーマサンシャーィン、マイオンリーサンシャーィン…♪」
やっぱり聴こえてたのか。



そして彼女は「明日こそ朝がきませんよーに!」と笑いながら、電気を消した。

横になった僕の背中に、彼女が顔を寄せて、ちいさく「へたくそ」と、また笑った。

1:DAY

「地球って光ってないだろー??」
「地球見たことないけど。」
「地面見てよ。眩しくないやない。」
「まぁ。そうですな。」
「そこでさ、似たようなのがありますよね?」
「似たようなの?」
「光ってないけど、空に浮かぶ丸っこいやつ。」
「そうさな…」
「風船ですよ。」
「早いよ。もう少し考えさせろ。」
「いいかいワトソンくん。人間とは考える阿呆だ。」
「…もういいよ…」
「わー!!うそうそ。ちょっと聞いてよ。」



彼女が言うには、どうやらここは、地球という風船の上らしいのだ。
彼女の提案するアイディアはいつも奇抜で大胆さが過ぎる。現実味はまるで無い。
ただ、僕には彼女のアイディアを無視できない理由がひとつだけある。
僕は彼女の話がすきなんだ。まぁ、三度のごはん程度には。

彼女にとっては、光ってないものは星じゃないそうだ。
地球はそれに含まれる。
彼女のルールに従うと、太陽も月も星も(光るから)星だけど、地球は(光らないから)風船だという。
でも僕はそのルールに反抗する。つまり彼女に反論を述べる。
僕は高校の地学の授業で先生に教わったことを、先生が僕に教えたときよりも、100倍くらい易しい言葉を使ってゆっくりと説明する(反論するだけでも彼女はそわそわしだす上に、こうしないとすぐ物を投げつけてくるからだ。週刊少年ジャンプとか)。

「風船の中は空っぽやろ?でもね、地球は違う。真ん中にすんげぇ重いのが詰まってて、それは“核”っていって、その周りを“マントル”という層が…あ、この“マントル”っていうのは………」
「チッチッチッ…」
彼女は得意げ腕を胸の前で組み、「君が甘いのはそこなのだよ。」と言う。
「でもこの意見には、知識に基づいた論拠がある!」僕は彼女に合わせて小芝居を打ってやる。
「全ての証拠のツジツマが合う。そこが逆に、アヤシイのだ。」
これは昨夜のドラマの台詞だ(彼女のお気に入りのアイドルが脇役として出演している)。

ここまでくれば、彼女は勝手に喋りだす。
「皆、目に見えるものだけに躍らされすぎている…」と呟きながら、大いなる風船、“地球”の神秘を語る。
ここで、彼女の話を聞きながら僕がとったメモをお見せしよう。
僕は僕で、今読んでいる本の影響で、メモをとることに熱心なのだ。

 ●地球=風船(光ってないから)
 ●地球が星だと思っているヤツらは騙されてる(何故なら星は光る)
 ●神は風船を膨らませるのに7日かかった
 ●そこに勝手に生命が栄えた(神、想定外)
 ●それをコントロールするために、神がヒトに塔を造らせた(塔は上に伸びているわけではない、風船から垂れているヒモ)
 ●神が特に気に入っているヒモはエッフェル塔(だからパリは華の都)
 ●ピラミッドは掴みにくい(だからエジプトは砂漠、神ひどい)
 ●スカイツリーの可能性は未知数(頑張れTOKYO!)
 ●駅前のカフェにスカイツリーという特大パフェの新メニューがでた

メモはここで終わりである。
察しの良い人は既にお気付きであろうが、僕らは部屋を出て、話の続きを駅前のパフェですることに決めたのだ。

「カフェは嫌い…」彼女は口いっぱいにパフェをもごもごしながら話す。「でも、パフェはすき…」
そして、くくくっと笑う。
こんな時、彼女がこういう風に、自分の思いつきを笑う時、僕は絶対に笑わない。
彼女がこういう風に笑う時は、下を向いて身体を震わすから、僕はその時に彼女の揺れるつむじを見る。
つられて笑ってしまうよりも、僕はこうする主義なのだ。僕は笑わないけれど、その時すごく楽しい。

パフェを食べるのに飽きた彼女は背もたれにぐっと背を押し付け、天井を見上げる。
僕はいちごが全て食べ尽くされたパフェの残骸を食べながら、彼女のずんと伸びた喉元をぼーっと眺める。

「ねーえ…」
「ん??」
「…だとしたら、もし風船だとしたら、地球は割れますな…いつか…」

「…うん。やろうね。」僕はそう言って笑う。

彼女も、上を向いたまま、「相変わらずあんたはつめたい。」と笑った。



そういえば、昔の恋人に僕は、「あなたと居ると、永遠に冬が続くみたい」と言われたことがある。
あれは僕にとって、なかなか忘れ難い苦い思い出だけど、さっきの彼女の憎まれ口は、僕は明日には忘れてしまっているだろう。
僕にしてみれば、彼女は一日で通過する四季だ。



食後のコーヒーを飲む。
彼女は角砂糖を2つと、ミルクを注いでかき混ぜながら真剣な顔をして言う。
「…とはいえ、地震は非常にこわい。せっかくここまで来たし、ホームセンターに寄ってって、本棚用のつっぱり棒を買っとこう。ここらへんは活断層が多いから。」
僕がもの言いたげに彼女を見ると、「ワタクシ、センター試験では地学の点数、9割越えてますの」と、にやりと笑って立ち上がった。
彼女は僕がコーヒーを飲み終えるのも待ってくれない。

僕は彼女の意地悪なところが苦手だ。

まぁ、多少無理してブラックで飲むコーヒー程度だけど。

プロフィール

ま★

Author:ま★
こんにちは。
ようこそおいでくださいました。

頭の中はとても愉快なやつです。
見た目はとっても冴えないですが。

更新は気まぐれになりそうですが、できるだけ頑張ります。

パーティーの招待状には、終わりの時間を書かないそうです。

しかしこのパーティーの本当に怖いのは、そもそも終わりの時間は永久に訪れそうにないこと。

ごゆっくり。

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